2010年8月号 2ページ目
あたしは夏真っ盛りで暑苦しいのに、なぜか、なにかの着ぐるみをきているのだった。
その着ぐるみはなんか汗臭かったので、新品ではなく、自分が着る前に誰かが着ていたのだろう。
きっとどっかの汗かきのおっさんかだれかに違いない。
そういえば、着ぐるみをクリーニングに出す人って見たことないし。
それでいて、両眼に当たる部分には、ちっちゃな穴しか空いていないからケッコウ視野が狭く見づらかった。
まっすぐ前は見えるが、ちょっと左か右をみようとするものなら、いちいち左か右に頭を傾けなくてはいけないんで、面倒くさい。
どうやって脱げばいいかもワカンないしこれを一生着てなくちゃいけないんだろうかと思ったらゾッとした。
それで、あたりをよく見ると、例外なく全ての人がなんかの着ぐるみをきているのだ。
おかしいな、どうして皆そんな暑苦しい不便なものを着ているんだろうとも思ったが、あたしだって着てるんだから文句を言える筋合いではない。
あたしは結局どうしようと思ってフラフラ歩いているうちに自分が住んでるK市の駅にたどり着いた。
そこにペンギンの着ぐるみをきて、昔ながらの牛乳瓶のソコみたいに分厚いめがねをかけた背のちいさなおじいちゃんが歩いていた。
ところがよくみるとそのおじいちゃんは、ペンギンの着ぐるみを着ていたんではなくて、体は5等身位で頭がおっきく、短足で、歩いている姿が左右にユラユラして、その割にはちっとも前に進んでおらず、両手は5本指をそろえて、転ばないように体から離して歩いていて、黒っぽい昔のダサイ背広をきているだけなのだった。
つまり、あたしはやっと着ぐるみを着ていない人に出会えたのだ。
外は暑いし、この超視野が狭くて、暑苦しくて、あんまりいい匂いのしない着ぐるみを脱ぐ方法をこのおじいちゃんは知ってるはずと思って声をかけた。