2010年8月号 3ページ目
「ちょっとすみません」
「なんじゃな?エンコーだったら、間に合っておる」
すっごいシツレーなジジイだとおもったが、まあ今回は許す。
「あのー、おじいさんはどうして着ぐるみをきてないのですか?」
「ふん、好きで着ておきながら今度は脱ぎたいというんじゃな。
まあ、ついてくるがいい」
あたしは、言われるままに駅前のオンボロ3階建ての雑居ビルについていった。
エレベーターにのって、3階にあがると、ホコリだらけの古い沢山の本が壁じゅうに天井までの本棚にあふれているヘンな部屋に通された。
入り口には
「○○研究所 所長室 ○○博士」
とかいてあったけど、○の部分は全部英語かなんかの横文字で筆記体だったのであたしにはさっぱり読めない。
赤いミニスカートのスーツをきて頭をホステスさんみたいにアップにした秘書みたいな綺麗な人が、いちごミルクのかき氷を2個もってきて、フレンチネイルの手でお上品に、あたしの前とペンギン博士の前に置いた。
そして、あたしに微笑みかけるとすぐいなくなった。
それで分かったんだけど、やっぱりペンギンの主食は氷なのだ。
あれ、魚だったっけ。
博士は半分位かき氷を食べたところで、
「それで、なんの話じゃったかな?」
と聞いた。
あたしは、かき氷とよく冷房のきいた部屋にいるおかげで着ぐるみのことはすっかり忘れてしまい、今後の進路が決まってないこと、その他もろもろのことで、要はほとんど不満とグチをとりとめもなく博士にしゃべりだした。
博士は一通りあたしの話を聞いてくれた。
内容はとりとめもなく長いのでここでは省略する。
「ふん、それで、
自由になりたいということじゃな。
たまにそんなやつがここに来るが、たいていまた着ぐるみを着たいというのが関の山じゃ。
どうしてもというのなら、教えてやってもよいが」
「はい、あたしは着ぐるみが脱ぎたいし、自由になりたいんです。
他人に利用されたくないんです」